【第5回】RCM実施事例(医薬品業界)

これまで見てきたように、RCMは機器の重要度を「安全性の観点」、「生産に寄与する観点」などからリスク分析し、それに対する予防策を決定する手法である。この手法は、医薬品製造における品質確保にも適用できるので、医薬品業界でもRCMのリスク分析の中心手法であるFMEAが活用されている。


図5.1 ICHQ9 「品質リスクマネジメントに関するガイドライン」


医薬品業界では、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH: International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use)という機関が医薬品の品質確保に関するリスク分析のガイドラインを提示している。(図5.1参照) 作業手順や設備の運転・保全に関して、リスク分析手法としてのFMEA適用報告が医薬品製造会社によって行われている。
医薬品製造会社での適用例では、故障や不具合が発生したときの大きさを「危険優先度(RPN: Risk Priority Number)」で表現している。これは、懐中電灯の例の図2.3から図2.5で紹介した「故障等級」に相当するものである。故障が発生した場合の影響度(S)、故障の発生度(O)、故障検出度(D)から、RPN(=S x O x D) を算出して、故障の大きさを定量化している。RPNの大きい故障を「故障等級」の高いもの、すなわち、対象機器の機能が損なわれる影響が大きい故障として防止方策を決定する。

以下に、無菌製剤製造工場の空調設備に対して、日揮グループが実施したFMEAの事例を紹介する。
実施の目的は、リスク低減のための保全方式・保全内容の検討である。

(1) 現状の保全リスク認知
現状の保全リスク認知は、図5.2の手順で実施した。
まず、故障の定義を行い、その故障の影響度、発生頻度、事前検知に点数をつけて定量化する。
そして、それぞれの点数を乗じた現状リスクを求める。これが、先ほど述べた危険優先度(RPN)に相当する。


図5.2 現状リスク認知


影響度は、品質、安定供給、安全の3項目から定量化する。それぞれ、図5.3から図5.5の基準に基づき、点数化する。この3項目の点数の合計が影響度の点数となる。


図5.3 品質の基準



図5.4 安定供給の基準



図5.5 安全の基準


さらに、発生頻度と事前検知は、図5.6と図5.7に基づいて点数化する。


図5.6 発生頻度の基準



図5.7 事前検知の基準


この手順により、図5.8のような現状リスク(270点)が算出できる。


図5.8 現状リスク算出


(2) リスク低減の検討
次に、算出した現状リスク(270点)を低減する方法を検討する。
低減のための対策案は、現状リスクの「影響度」、「発生頻度」、「事前検知」の各要素において検討する。

まず、「影響度」の低減方法であるが、この要素の低減は「品質」、「安定供給」、「安全」の3項目における低減を行うことになるが、対象の空調設備そのものの構造や、全体設備における位置づけ、役割を変更しない限り、低減は図れない。この事例においては、FMEA実施目的が「リスク低減のための保全方式・保全内容の検討」であるので、空調設備の設計変更などは行わないこととした。

続いて、発生頻度に関しては、空調設備の部品を定期交換することにより、これまでは、図5.6において「6点:1年に1回発生」から「3点:3年に1回発生」の頻度に抑える対策を取る。

さらに、事前検知は、図5.7のように、「キャリブレーション」などを行い、故障を事前に防ぐ対応策を取ることとし、「9点」を「5点」に低減させる。

上記の対応策を講じることにより、現状リスク「270点」が「75点」に低減できる。(図5.9参照)


図5.9 リスク低減検討


無菌製剤製造工場の空調設備に対して、上記の手順で、故障原因ごとにFMEAを実施し、現状リスクの定量化を行い、図5.10に示す結果を得た。FMEA実施とその結果により、参加者の知見整理や危険度の認識共有などを実現でき、その上で、リスク低減を定量的に検討することが可能となった。


図5.10 現状リスクサマリ


以上が、RCMに関する概要と実施事例紹介である。次回からは、RAM(Reliability信頼性, Availability稼働率, Maintainability保守性)の概要と事例を紹介する。

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